インプラント治療の限界

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「治療がない、と言われたときには本当に腹が立ったんです。 本人は闘う気でいるんですよ、まだまだ。
夫の私からみても、その気力はすごいと思う。 努力家、勉強家で、常にどうすべきか考えているし。
お医者さんはいったん、実験が終わってしまえば興味を失って、何もしないで放り出すものなんでしょうか。 少なくとも私たちにはそう思えました。
患者も家族もそれではたまりませんよ」Kさんは念願かなって、癌研有明病院緩和ケア病棟の患者になりました。 自身もいつとき病に倒れてしまったというご主人は、入院が決まって心から安堵したといいます。
「それで、ここに来て今は、どんなふうに感じていらっしゃいますか」と問いかける私に、Kさんは私の目を見つめてこう言いました。 「私は本当に満足しているの。
たとえば、私はいま寝てばかりだから腸の動きが悪いのね。 だからお通じもうまくいかないの。
でも、看護師さんが本当に上手にやってくれるの。 本当にプロだと思う。

倦怠感が強いといったら、ちゃんと薬を出してもらったし。 それで元気になってきたし」一呼吸おいて、「ちょっと窓を開けてくださる?ちょっとだけ息苦しいんだけど」Kさんが言われるので、私は立ち上がって窓をほんの少し開けました。
外は海に面しています。 外はすっかり暗く、はるか向こうの千葉県の工場の灯りが並んで見えます。
Kさんは、肺にも転移がありました。 しかし息苦しさはそのためというよりも、一気に話を続けてくださった興奮のためのようです。
「大丈夫ですか?辛かったら言ってくださいね」Kさんは、再び自分で歩けるようにならない、ということを覚悟していました。 しかし、車椅子に乗って移動して、近所のホテルのバイキングで家族と思い切りおいしいものを食べたと心配しましたが、「ええ、ええ私は大丈夫。
それで次の質問は何かしら」と言われ、私が言葉を探しているとさらに話を続けます。 「そうねえ、私はいま食欲もあるくらいなの。
コンビニエンスストアで売っている、甘いおかきが食べたくて食べたくて、体が炭水化物を要求しているって感じているの」Kさんの食欲は結構なものでした。 おかきを袋ごと手元に置いて、気が向くと次から次へと食べる、といった具合です。
その食べつぶりに、Kさんのエネルギーが満ちている様子が感じられました。 翌週には、食べ物の好みが変わっていて、「どうも自分にビタミンが少ないような気がするの。

だからできるだけみかんを食べたいと思うの。 」すみかんの皮を入れる袋がばんばんになってしまうほど、みかんに熱中されています以前、余命一か月から半年と宣告され、以来、何とか這い上がりたいと夫婦で過ごしてきたKさん。
Kさんの病室には毎日夫が訪れ、Kさんから頼まれる買い物など、ささやかな用事をこなしていました。 ご主人もまた、前向きに過ごす妻の姿に「私ならできない。
妻はすごい」と足を運んでくるのでした。 Kさんは、この緩和ケア病棟で、新たな抗がん剤治療を受けたわけではありません。
放射線治療を受けたわけでもありません。 しかし、私にはっきりおっしゃいました。
「私は、ここでなら治療を受けている、という実感がある」自分でこの場所を選んで入院した満足感なのでしょうか。 「治療を望んでいる」とおっしゃっていた本人が「治療を受けている実感」のなかで亡くなることができたということは、どういうことなのか。
その答えを見つけてみたい。 このことが、私の取材の大きな目的になりました。
一般的に「緩和ケア病棟に入りたい」という患者の希望があったり、あるいは内外の医師から「自分の患者を緩和ケア病棟に」という紹介があったりした場合でも、患者はすぐに入院できるわけではありません。 病室の数に比して、希望者が多い、ということもありますが、入院についての取り決めがあるのです。
その取り決めは、日本ホスピス緩和ケア協会(旧全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会)の「ケアプログラムの基準」で示された入院の条件に沿い、施設ごとにつくられています。 そして緩和ケア病棟への入院については、(そして退院についても)希望者がその条件に合っているかどうか、複数の専任スタッフの間で検討することが必要とされています。

癌研有明病院の緩和ケア病棟でも、この「入退棟検討会」という会議が、定期的に(現在は週一回、師長、副師長、医療ソーシャルワーカー、M医師が出席)開かれています。 検討会には、患者ごとに申し込みのための書類が提出されます。
患者本人、家族、そして担当医師の三者がそれぞれ書き込みをしたものが、一セットです。 患者本人が書き込む用紙には、プロフィールに加え、いま苦痛と感じていること、これまでの治療、病気についてのこれまでの説明内容、病気についての受け止め方、心配なことや聞きたいこと、病気以外に心配なこと、病気についての説明を一緒に聞きたい相手は誰か、緩和ケア科の受診や病棟への入院について誰からどう説明されたか、何を期待しているか、苦痛が緩和したあとはどういう診療を受けたいか(外来通院・在宅医療・両方)、見学の希望の有無などについて、かなり細かい選択肢に○をつけるか、自由記述をするようになっています。
とくに多くの選択肢が示されているのは「現在の苦痛」の部分で、痛み、だるさ、食欲不振、のどの渇き、気分の落ち込みまで、じつに一七の不快症状のなかから該当するものを選ぶようになっています。 家族には、ほぼ同じ項目のほかに、患者の病気についての理解は家族と同じか、介護・看護することの可能な人は誰か、についての記載が求められています。
また、医師の書き込む用紙では、治療の経過、患者の認知障害の有無、全身状態、どれも患者のプロフィールを知る上で必要な情報ですが、とくに、緩和ケア病棟への入院について、患者がどの程度納得しているかという点は、入院に際してきわめて重要なポイントです。 患者本人が緩和ケアという言葉について抵抗感が強く、納得していない場合には、書類を戻して家族と医師とを交えて改めて検討してもらったり、緩和ケア科の医師が直接、患者本人と話して気持ちを確かめたりしています。
M医師は言います。 「ご本人が、緩和ケアを受けたくない、まだ治療を続けたい、絶対に嫌だ、というふうに否定的な気持ちになっておられると、入院そのこと自体が大きなストレスになって、患者さんを苦しめてしまいます。
緩和ケアは、確かに看取る医療と同義語ではないのですが、そういう誤解をもっている患者さんが、まだ多いのです。 WHO式の「早期からの緩和ケア」をめざしている立場からは内心佃促たるものがありますが、いまは仕方がありません」COGスコア、苦痛の程度と度合い、患者・家族への説明内容、その理解、紹介理由、入院を希望したのは誰か、処方内容、などを記載するようになっています。
入退棟検討会が開かれるのは、たいてい午後三時ごろ。 病棟カンファレンスや外来患者の診察などが一段落したころです。
出席するのは、M医師、病棟のN師長、そして医療ソーシャルワーカーのMさんの三人です。 緩和ケア科の医師はもう一人、T医師しかいないので、場合によってはT医師がM医師のかわりに出席します。
この会議で、緩和ケア科の医師は、患者の病状や苦痛の程度についての情報を補足します。

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